ずいけい
まごころに生きる  


―世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ―

2012年、ブラジルで「環境国際会議」が開かれました。会議の終わりに、南米の国ウルグアイの演説の番がやってきました。
壇上に立ったムヒカ大統領は、質素な背広にノーネクタイのシャツ姿。そう彼は世界でいちばん貧しい大統領なのです。
給料の大半を貧しい人のために寄付し、大統領の公邸には住まず、町から離れた農場で奥さんと暮らしています。花や野菜を作り、運転手付の公用車には乗らず、古びた車を自分で運転して大統領の仕事に向かいます。
さて、ムヒカ大統領の演説が始まりました。会場の人たちは、小国のしかもみすぼらしい身なりの大統領の話にそれほど関心をいだいてはいませんでした。しかし、演説が終わったとき、会場は大きな拍手につつまれました。
 
ここに集まった世界各国の代表者の皆様に、深く感謝いたします。
さて、私たちあわれな人類は、どんな未来を選ぶべきなのでしょうか。この会議で議論されてきたことは、人類がこの先、地球の自然と調和しながら生きていくにはどうしたらよいのか、そして世界から貧しさをなくすにはどうしたら良いのかということでした。
しかし一方で、私たちの頭の中には何がうかんでいるでしょう。もっと豊かになって、ほしいものがどんどん手に入る、裕福な社会を望んでいるのではないでしょうか。
私はみなさんに問いかけます。もし、インドの人たちが、ドイツの家庭と同じ割合で車を持ったら、この地球に何が起きるでしょう。私たちが呼吸するための酸素がどれだけ残るでしょうか。
ぜいたくの限をつくしてきた先進国の消費社会を、70億の全人類が行える資源が、この地球にはあるのでしょうか。
なぜ私たちは、この無限の消費と発展を求めるような社会を作ってしまったのでしょうか。
市場経済が市場社会を作り、このグローバリゼイションが世界のあちこちまで原料を探し求める社会にしたのではないでしょうか。
このような残酷な競争で成り立つ消費主義社会で「みんなの世界を良くしていこう」というような共存共栄な議論はできるのでしょうか?
どこまでが仲間で、どこからがライバルなのですか?
私は、こんな会議をしても、無駄だと言いたいのではありません。むしろその反対です。
私たちの前に立つ巨大な危機問題は環境の危機ではなく、私たちの生き方の危機なのです。人間は、いまや自分たちが生きるために作った仕組みをうまく使いこなすことができなくなっています。むしろその仕組みによって危機におちいっているのです。
人の命についてはどうでしょうか。
私たちは、発展するためにこの世に生まれてきたのではありません。幸せになるためにこの地球に生まれてきたのです。
人生は短く、あっと言う間です。命よりも大事なものはありません。ところが、無限の消費が世界を壊しているのにも関わらず、高価な商品やライフスタイルのために、自分の寿命を減らしてまでも働き続けます。
私は、石器時代にもどろう、と提案しているのではありません。そうではなく、いまの生き方をずるずると続けてはいけない、もっと良い生き方を見つけないといけないと言いたいのです。私たちの生き方がこのままで良いのか、考え直さないといけない。そう言いたいのです。
古代の賢人エピクロスやセネカは、次のように言いました。
「貧乏な人とは、少ししかものを持っていないことではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」
このことばは、人間にとって何が大切かを教えています。
私が話していることは、とてもシンプルなことです。社会が発展することが、幸福を損なうものであってはなりません。発展とは、人間の幸せの味方でなくてはならないのです。
人と人とが幸せな関係を結ぶこと、子どもを育てること、友人を持つこと、地球上に愛があること…
こうしたものは、人間が生きるためにぎりぎり必要な土台です。発展は、これらを作ることの味方でなくてはなりません。
なぜなら幸せこそが最も大切な宝だからです。人類が幸福であってこそ、よりよい生活ができるのです。 
環境のために戦うのであれば、人類の幸福こそが環境の一番大切な要素であるということを覚えておかなくてはなりません。
これで、私の話は終わりです。ありがとうございました。


〈ホセ・ムヒカの言葉〉
人生はもらうことではなく、あげること。どんなにひどい状況にいても、他人にあ げられる何かがかならずあります。
私は貧乏ではなく、質素なのです。
よりよい生活とはより多くの物を持つことではなく、より幸せになることです。




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