ずいけい
まごころに生きる  


中国(とう)の時代に玄奘三蔵(げんじようさんぞう)というお坊さまがおられました。玄奘さまは、孫悟空(そんごくう)で有名な『西遊記(さいゆうき)』に登場する三蔵法師(さんぞうほうし)のモデルとなったことで知られています。玄奘さまは、翻訳僧(ほんやくそう)として活躍された方で、インドへ修行に行かれ、お写経されて持ち帰った梵語(ぼんご)で書かれた膨大なお経を、中国のことばに翻訳されました。
現在日本で一番よく読まれている『般若心経(はんにやしんぎよう)』も玄奘さまが訳されたお経です。般若心経冒頭の「観自在菩薩(かんじざいぼさつ)」とは、「世間の多くの人びとを観て、そして救う働きが自在である菩薩」という意味で、みなさまご存じの「観音さま」のことです。

さて、仏教には諸経(しよきよう)の王ともいわれる『法華経(ほけきよう)』という、とてもすばらしいお経があります。梵語の法華経を漢字に翻訳されたのは、玄奘さまより古い時代におられた、鳩摩羅什(くまらじゆう)というお坊さんです。鳩摩羅什さまは法華経の中の「観音経(かんのんぎよう)」の章で、観音さまを「観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)」と翻訳されました。
この観音経には、「もし人が、さまざまな苦悩を受けたとき、菩薩さまの慈悲(じひ)の力を信じ、一心にその名を(とな)えるなら、菩薩さまはすぐにその音声を聞き、お救いくださるであろう」と説かれています。このことから、鳩摩羅什さまは、世間の苦悩の音を観てお救いくださる菩薩という意味で、「観世音菩薩」と、訳されたといわれています。
「観音さま」という呼び方は、この観世音菩薩を略したもので、今でも日本では親しみを込め広く用いられています。
そして、人は非常な悲しみや苦しみの中にいるときに、手を合わせて「南無観世音菩薩(なむかんぜおんぼさつ)」「観音さま」と、呼びたくなります。

では、どうして「観音さま」と呼びたくなるのでしょうか。実は観音さまの方から呼びたくなるようにうながされているのです。
例えば、小さな子どもは、「お父さん」「お母さん」と、よく呼びかけます。それは、子どもが呼びかける以前に、その両親が子どもに、どうか無事に健やかにしあわせに育ってほしいと願って常に呼びかけているからです。呼びかけに応えて子どもは「お父さーん!」「お母さーん!」と呼ぶのではないでしょうか。そしてその呼び声ほど心に響くものはありません。
同じように、観音さまのこの世の大勢の人々の悲しみや苦しみを観て、救いたいと願う誓願(せいがん)慈悲(じひ)の心の呼びかけが、人々に「観音さま、どうぞお救いください」と手を合わせる気持ちをうながすのでしょう。
救おうとする観音さまの意志と、救われようとする衆生(しゆじよう)のこころとが感応道交(かんのうどうこう)し、相通じ合うとき、この世は仏さまの慈愛(じあい)につつまれたお浄土となるのです。



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