ずいけい
まごころに生きる  


2021年7月27日に北海道・北東北の縄文遺跡群が、ユネスコの世界遺産に登録されました。北海道では、伊達市の「(きた)()(がね)(かい)(づか)」、洞爺湖の「(いり)()(たか)(さご)(かい)(づか)」、函館市の「(おお)(ふね)()(せき)」「(かき)(しま)()(せき)」が指定されています。
最近の研究では、日本列島を舞台とする人類の歴史は、少なくとも3万年以上前の旧石器時代までさかのぼることができるといいます。この旧石器時代では、人は自然の中で動物と同じように食料を求めて(ゆう)(どう)(てき)な生活をしていました。そして約1万5000年前、「縄文革命」ともいえる歴史的転機をむかえます。それは、今までの遊動的な生活スタイルから、村を中心とした定住の生活となり、縄文土器を制作し使用が始まったということです。
世界の4大文明(エジプト、メソポタミア、インダス、黄河)は(のう)(こう)(ぼく)(ちく)による、安定した定住が高度な文明を生み出したと考えられてきました。これに対し、縄文人は「(しゅ)(りょう)(ぎょ)(ろう)(さい)(しゅう)」による定住でした。これまで、狩猟採集民族は貧しく不安定な生活をしており、そこに高度な文明が生まれるはずがないと考えられてきました。ところが、縄文時代の人々は定住し、他の文明と比べても豊かな暮らしをしていたことがわかってきました。その証拠の一つとなるのが、縄文土器の存在です。
世界では少なくとも3カ所で独自に土器作りが開始され周辺へと拡がりました。西アジア(イラン、イラク)のメソポタミア地方、南アメリカのアマゾン流域、、そして日本列島の縄文土器を含む東アジア(ロシア、中国、日本)です。(ほう)(しゃ)(せい)(たん)()(ぶん)(せき)(ほう)による年代測定によると、西アジアの土器は今から9000年前、アマゾン川流域の土器は7000年前、縄文土器は約1万5000年前で、縄文土器が世界で一番古いということがわかりました。
さて、西アジアの土器は食料などの貯蔵用、あるいは食器として作られました。これに対して縄文土器は(ふか)(ばち)を主体とする()()き用でした。縄文人は、食べ物を煮炊きすることで、従来生では食べることができなかった、特に植物性の食料の種類が広がり、食糧事情を安定させることができました。そして縄文土器は、(やよ)()()()と交代するまでの1万年以上の長きにわたり作り続けられました。北は北海道の北方四島、南は九州、さらには沖縄諸島にまで広がり80種の様式の縄文土器が発見されています。
縄文土器には、地域それぞれの特色を超えて、注目すべき共通の性格があります。それは「(こう)(えん)()に立ち上がる(とっ)()」や「(ふち)が波打つような()(じょう)(こう)(えん)」です。世界中の土器は、サラダボウルのようなものを原型とし、大小の大きさの違いがあますが、器としての機能を重視しています。しかし、縄文土器は、器としての機能を追求することなく、(そう)(しょく)(せい)を重視したものとなっています。そして(なわ)による編み目の文様が特徴ですが、この網目模様は1万年続きました。その後、今から5000年前の縄文中期には、日本列島各地で()(えん)(がた)()()が作られました。この土器は、燃え上がる炎を(かたど)ったかのような形状の土器で、縄文土器の中でも特に装飾性豊かな土器です。縄文土器は単なる容器にとどまるものではなく、縄文人自らの世界観を表現したものであり、縄文文化を象徴する芸術ともいえます。
芸術家の岡本太郎は、昭和26年に東京国立博物館で縄文土器に初めて出会い、大きな衝撃を受けたという話は有名です。その後、岡本太郎はカメラを(かつ)いで縄文土器を訪ね歩き、東北や沖縄にまで足を運び、縄文の美の素晴らしさを発信していきました。それが各方面に大きな影響を与え、それまで美術品として見られることのなかった縄文土器は、日本美術史の最初のページに書き加えられることになりました。
世界の文明は、農耕を(けい)()に大きく飛躍しました。農耕は自然を(かい)(こん)し農耕地を拡大してきました。それは、自然との戦いであり、自然を克服することでもありました。
それに対して、縄文人は1万年ものあいだ、自然を大切にし、必要なときに必要なものだけを自然から少しだけいただくという、共存共生の生き方を選びました。これは、「自然との(きょう)(かん)(きょう)(めい)」の付き合い方といえるでしょう。縄文人のその生き方、精神こそが、()(えん)(がた)()()に代表されるあの美しい縄文デザインを生んだのではないでしょうか。

▲火焔型土器


最新記事へ



●令和6年1月号 生命とは動的平衡
●令和5年10月号 色即是空空即是色
●令和5年8月号 森の木は会話する
●令和5年5月号 教育勅語
●令和5年3月号 龍村仁監督と佐藤初女さん
●令和5年1月号 中宮寺 如意輪観音
●令和4年10月号 人は死なない
●令和4年8月号 バッチ博士のフラワーレメディ
●令和4年5月号 縄文文化-縄文土器-
●令和4年3月号 イマジン
●令和4年1月号 日本のなりたち
●令和3年10月号 ありがとう
●令和3年8月号 「而今」ー今ここー
●令和3年5月号 シュリハンドクとレレレのおじさん
●令和3年3月号 コロナウイルスとこれからの日本
●令和3年1月号 三密とコロナ
●令和2年10月号 日月神示が告げるコロナとミロクの世界
●令和2年8月号 祈祷-命の危機の時代に-
●令和2年5月号 色即是空-色はすなわち是れ空なり-
●令和2年3月号 お彼岸-内海聡先生講演会-
●令和2年1月号 お水の時代
●令和元年10月号 生まれる前のおはなし
●令和元年8月号 祈りと量子力学
●令和元年5月号 一休禅師とシャーリー・マクレーン
●平成31年3月号 『浴司』よくす
●平成31年1月号 夢と意識
●平成30年10月号 『而今』にこん
●平成30年8月号 懐奘さまのまごころ 孝順心
●平成30年5月号 唯仏与仏
●平成30年3月号 彗星探索家 木内鶴彦さん
●平成30年1月号 金子みすゞの世界
●平成29年10月号 お地蔵さま
●平成29年8月号 お盆
●平成29年5月号 諸法実相-ただ仏と仏とのみ-
●平成29年3月号 即心是仏
●平成29年1月号 はじまりはひとつ
●平成28年10月号 ホセ・ムヒカの生き方と言葉
●平成28年8月号 1/4の奇跡
●平成28年6月号 いのちをむすぶ ー佐藤初女さん
●平成28年3月号 般若心経
●平成28年1月号 生きがい
●平成27年10月号 死後の世界(その二)
●平成27年8月号 死後の世界
●平成27年5月号 ダライ・ラマ十四世法王
●平成27年3月号 正倉院ーシルクロードの終着駅ー
●平成27年1月号 三帰礼文ー三宝を敬うお唱えー
●平成26年10月号 「般若心経」色即是空・空即是色
●平成26年8月号  ハス
●平成26年5月号 観音さま
●平成26年3月号 無情説法
●平成26年1月号 石田徹也
●平成25年10月号 食 じき
●平成25年8月号 GOMA
●平成25年5月号 宮沢賢治ー菩薩の道を行くー
●平成25年3月号 東日本大震災 三回忌追悼
●平成25年1月号 新年あけましておめでとうございます
●平成24年10月号 宇宙の始まり
●平成24年8月号 ふくしま
●平成24年5月号 花まつり
●平成24年3月号 画餅 -絵に描いた餅-
●平成24年1月号 いま・ここを大切に生きる
●平成23年10月号 大自然から学ぶ
●平成23年8月号 暑中お見舞い申し上げます
●平成23年5月号 花まつりーお釈迦さまの誕生日
●平成23年3月号 「奇跡のリンゴ」
●平成23年1月号 「すべてはこころ」
●平成22年8月号 自発的治癒力
●平成22年8月号 地蔵盆
●平成22年8月号 奇跡のリンゴ
●平成22年5月号 お水取り
●平成22年3月号 仏さまに救われて
●平成22年2月号 号外 真如の表紙
●平成22年1月号 新年のごあいさつ
●平成21年10月号 浄国寺御開山
●平成21年5月号 花まつり
●平成21年3月号 お彼岸
●平成21年3月号 チェンジ-変革
●平成20年10月号 あいさつ
●平成20年8月号 天来の呼び声
●平成19年8月号 釈迦八相
●平成19年5月号 花まつりーお釈迦さまの誕生日
●平成17年10月号 イサム・ノグチとモエレ沼公園

Copyright (C) 2009 joukoku-ji.jp. All Rights Reserved.