ずいけい
まごころに生きる  


 
(しき)(そく)()(くう)は、『(はん)(にゃ)(しん)(ぎょう)』の有名な一節です。(しき)とは、目に見える「物」ということで、この宇宙に存在するすべての物質や現象のことを意味します。それから(くう)とは、実体がないということで、この世には変わらない物、固定した物がないという意味です。
一見、変化しないように見える、金やダイアモンドであっても、138億年前に宇宙が誕生し現在にいたるまでの永い宇宙時間の中で、できた物質です。いずれ、この永い時の流れの中で、また変化をし移り変わっていくということです。
たとえば、ここに一つのテーブルがあるとします。テーブルは「物」ですが、使う目的から名づけられただけで、「テーブル」という真の実体があるわけではありません。それは、木材の組み合わせで、テーブルとしての機能を実現しているだけです。では、「木材」という実体が存在するのかというと、これも木材と名づけられただけです。では、その成分である繊維はというと、これも炭素原子や水素原子が組み合わさった名前にしかすぎません。
仏教では、すべての物は(いん)(ねん)によって生まれ起きると説いています。因縁とは、原因と条件ということです。このテーブルの存在も、原子が集まって木の種をつくり、そこに水や光や養分など、木が大きく育つための条件が満たされ、材木となったのです。そして、テーブルを作るという意思が生まれ、職人さんの手を借りようやくテーブルが完成します。でも、時がたつとまたテーブルは、(こわ)れたり()ちたりして変化し形を変えてゆきます。
このように、すべての物質や現象は、ご(えん)(因縁)により(かり)にこの世に現れているだけで、いずれ姿を変えていくのです。この世に実体という物はないのです。このことを『般若心経』では「色即是空」と表現したのです。

○この世のしくみ
この世のあらゆるものは、原子でできています。その原子を、さらに分割していくと、これ以上分けられない究極の「物」に到達します。これが、物質の一番小さい単位「()(りゅう)()」です。(でん)()・ニュートリノ・フォトン((こう)())など現在17種類の素粒子があるといわれています。この素粒子が、相互に変身し、関わり合ってその時々に物質を構成しているということです。この相互に関わり合うことを「ご(えん)」((えん)())というのです。
このことを、永平寺を開かれた(どう)(げん)さまは、『(しょう)(ぼう)(げん)(ぞう)』の中で「すべては真理の現れにほかならない。たき木は燃えて灰になる。これを常識的な考えで、たき木は先で灰はのちであると思ってはならない。たき木と灰には前後はあるのだけれども、その前後は(さい)(だん)(前後がとぎれていること)されているのだ」といわれています。
つまり、時間が連続してつながっているように感じるけれども、実は一瞬一瞬に現れた世界を連続しているように錯覚しているだけで、その一瞬一瞬に素粒子が、その都度組み合わさって絶対の今の一瞬一瞬が現れているということです。
 
○宇宙の始まり
物質の一番小さい単位である素粒子を生み出したのは、宇宙の始まりである、ビッグバンです。ではこのビッグバンの前は何だったのでしょうか。
以前、お寺でご講演いただいた(すい)(せい)(たん)(さく)()()(うち)(つる)(ひこ)さんは、(りん)()(たい)(けん)をされ、その時に宇宙の始まりを見てきたそうです。それは、無限大のただ真っ白い壁で、比較する物が何もない世界であったといいます。そして、退屈きわまりない、つまらないという気持ちになったのだそうです。ノーベル物理学賞を受賞された()(かわ)(ひで)()博士のお弟子さんで、(りょう)()(ぶつ)()(がく)(しゃ)(やす)()(くに)()先生は、この白い壁のことを「完全調和」の世界といわれています。
138億年前、この完全調和の白い壁が破れました。調和が破れたところは認識できます。引っ掻いて線をつけると1次元の世界、ビリッとはがせば2次元の世界。破った紙を組み立てれば3次元の世界が生まれます。これがビックバンの正体だったのです。
湯川秀樹博士は、この完全調和の破れを「()(りょう)(いき)」と名づけられました。素領域の考え方をもとに、湯川博士が唱えられたのが()(りょう)(いき)()(ろん)といわれるものです。
素領域の大きさは、10のマイナス37乗センチ以下と考えられ、宇宙空間も素領域が集まってできています。そして、完全調和が破れたところには、調和を復活させようとする力がおこりました。その力は素領域の中にも生まれており、その力、エネルギーが「素粒子」といわれるものなのです。

○『般若心経』と(げん)(じょう)(さん)(ぞう)
中国(とう)の時代、(ちょう)(あん)の都に(げん)(じょう)(602ー664)という僧がいました。あの(そん)()(くう)の物語に登場する、(さん)(ぞう)(ほう)()のモデルとなったお坊さんです。玄奘はインドの仏教を学ぶため、当時は鎖国の時代でしたが、(こっ)(きん)を破り(ひそ)かに出国し、西へ西へと旅を続けます。そして、3年の歳月をかけ、仏教の聖地ナーランダに着きます。そこで仏教を学び、16年後に帰国した玄奘は、持ち帰った(ぼう)(だい)な経典の(ほん)(やく)に余生のすべてを(ささ)げました。その経典の中に、600巻の(だい)(はん)(にゃ)(きょう)があり、それを要約したものが262文字の『般若心経』となりました。



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