ずいけい
まごころに生きる  


アニメや絵本でよく知られる一休さんは、とんち話で有名です。
織物屋の久兵衛さんは毛皮のチョッキを羽織り、毎日お寺にやってきて、遅くまで和尚さんと碁を打ってなかなか帰りません。そこで、一休さんは、お寺の門に「皮をつけたものは寺に入るべからず。入ればばちあたるべし」と張り紙をしました。
久兵衛さんは「どうせ一休のいたずらだろう。何か言ってきたら逆にやりこめてやろう」と入って来ました。
すると案の定、一休が出てきて、「張り紙はご覧になられましたか?」といいます。
「はいはい、見ましたよ」というと。「お寺は仏様を御安置する清らかなところです。殺生をした毛皮を着た人に入られると汚れますのでお帰り下さい」といいます。
「それはおかしなことです。ほら、本堂にある、太鼓は皮がはってあります。太鼓がいいなら私も入らせて貰いますよ」と久兵衛さん。
「お待ち下さい。奥へ入ると頭を叩きますよ」と一休。
「それは無茶な」。
「いえいえ、本堂の太鼓は、皮が張ってあるので、毎日ばちで叩かれているのです。それでいいならお入り下さい。さあみんな、太鼓のばちを持ってこよう」
小僧たちがわっと本堂へ走って行きました。
「いやいや参った。それなら帰ります」。
こうして、久兵衛さんはたまにしか来なくなり、来たときは早めに帰るようになったといいます。

一休さんは、室町時代の(りん)(ざい)(しゅう)の禅僧(いっ)(きゅう)(そう)(じゅん)禅師(1394ー1481)の修行時代がモデルになったといわれます。
一休禅師は、()()(まつ)(てん)(のう)を父に、その側室である藤原氏高官の娘を母に誕生しました。そして、わずか6歳で出家し厳しい修行の生活に入られます。12歳で「維摩経(ゆいまきょう)」(禅宗で用いられる経典)の講義を受け、13歳で漢詩を学び、15歳で詩文の才能が高く評価されます。
一休禅師の、幼少時代の僧名は(しゅう)(けん)といいます。17歳の時に京都西山の西(せい)(きん)()(けん)(おう)(そう)()のもとで修行し、名を「(そう)(じゅん)」と改めました。謙翁和尚亡き後、琵琶湖の(しょう)(ずい)(あん)華叟宗曇(かそうそうどん)のもとで修行します。そして、25歳のある日、華叟和尚から課せられていた(こう)(あん)(師匠から弟子に対して与えられる禅問答)が解け、それを有漏路(うろじ)より無漏路(むろじ)に帰る()()() 雨ふらばふれ 風ふけばふけ」と詩にします。有漏路とは、煩悩の多い迷いの世界です。無漏路とは、煩悩のない悟りの世界です。つまり、「人生は迷いの世界から、来世の仏さまの世界へ渡るごくわずかな一休みのできごと、どんなことがあっても大したことではない」というのです。
華叟和尚から、この詩の「一休み」から、「一休」の名を与えられて、一休を号としてそれ以後は「(いっ)(きゅう)(そう)(じゅん)」と名のるようになりました。
さて、一休禅師は最晩年、京都(だい)(とく)()の住職となります。けれども大徳寺には住まず、京都の京田辺市にある酬恩庵(しゅうおんあん)(一休寺)で過ごしました。
一休禅師は、76歳の時に、大阪住吉の薬師堂で鼓を打つ盲目の美人芸人、(しん)という女性と出会います。禅師は翌年、酬恩庵に彼女を()(しゃ)(師匠の身の回りの世話をする僧)として招き、禅師が88歳で亡くなるまで、10年間二人で過ごしました。
一休禅師の残した漢詩集『狂雲集(きょううんしゅう)』には、
木は(しぼ)み葉は落ちて更に春を(かえ)す 緑を長じ花を生じて旧約新たなり
森也が深恩もし忘却せば
無量億却畜生の身

(老体に春がよみがえった。もし森侍者の情けを忘れるようであれば、恩を知らない獣と同じである)と歌われています。一休禅師の老体をいたわり、献身的に最期を看取った森侍者の優しい人柄がうかがえます。

さて、シャーリー・マクレーンは、ブロードウェイの大女優として、またハリウッド映画のアカデミー賞女優として活躍されました。彼女の自叙伝『アウト・オン・ア・リム』では、自身の不思議な神秘体験が語られています。
南米のペルーの山奥で、夜ローソクの明かりで鉱泉に入っていたときに、それは起こりました。「私の霊か心か魂かが、空中へ高く舞い上がっていった。私の魂には、細い細い銀の糸がついていて、水の中に残っている私の体につながっていた。夢ではなかった。自分が二つの形を持っていること「下方には体、上の方に魂」を感じているのは確かだった。私の魂の周囲の空間は、穏やかで、優しく、清らかだった。私は気がついていた。多分これが体外遊離なのだろう。やがて、私は下にある自分の体の方へゆっくりと静かに降りていった。私は自分の体の中に戻っていた。」
その後も、シャーリー・マクレーンは様々な神秘体験をします。そして、チャネラー((れい)(ばい)())のケビン・ライヤソンから、彼女の前世の一人が、一休禅師が晩年一緒に過ごした、(しん)()(しゃ)であったことを告げられます。
 
1990年、シャーリー・マクレーンは日本での公演を行いました。そのおり、映画ガイアシンフォニーの監督である龍村(じん)さんに案内され、一休禅師が晩年、森侍者と過ごした酬恩庵(しゅうおんあん)を訪ねます。ご住職の案内で、シャーリーは一休禅師の木像が安置されている本堂に入り、禅師の前で瞑想します。500年ぶりの一休と森侍者、シャーリーの再会です。小一時間ほどの時が流れます。龍村監督は、その時の様子を「再び現れたシャーリーの顔は、さっきとはまるで違っていた。ハリウッドの大スターらしい、ある種の険しさが跡形もなく消えている。まるで東洋の幼い少女のようなあどけなさを感じた」といわれています。そのときシャーリーは「ジンさん、一休さんは蚊か何か、刺す虫との因縁がありませんか?」
と質問しました。龍村監督は、そのことをご住職に尋ねます。すると老師は間髪を入れずに答えてくださいました。「マラリアですよ。一休さんは晩年たびたびマラリアの高熱に悩まされ、それが結局命とりになったのです」。マラリア=蚊、このことを伝えるとシャーリーはにっこりと笑ってこう答えました「そうでしょう。一休の像の前で瞑想していると、実際には蚊に刺されたわけではないのに、蚊に刺されたような感覚が湧き起こって、皮膚に赤い斑点が現れたの。霊的な体験をしている時よく起こることなの」。

キリスト教では、魂が何度も生まれ変わるという輪廻転生を否定しますが、シャーリー・マクレーンは、人は自分の魂を成長させるために何度も生まれ変わることを信じているといいます。そして、何生も経験した自身の魂の記憶は未来へと引き継がれ、また遠い過去生の人生の記憶ともつながっているといいます。

▲一休禅師像
▲シャーリー・マクレーン



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