ずいけい
まごころに生きる  



紀野一義先生が、主宰される真如会(しんによえ)の月刊誌『真如』の1月号の表紙に、当山の弥勒菩薩像の写真を掲載していただきました。
定期に発行する「会報」の号外として、『真如』誌の、母の魂に守られて−表紙写真に寄せて−という先生のご文章を紹介させていただきます。
真如 紀野一義先生
▲紀野一義先生

平成15年(2003)6月29日、私は札幌の浄国寺へ行った。
浄国寺は札幌市西区にある曹洞宗の大寺院で、新装の大伽藍である。浄国寺の高橋浄英師は、この浄国寺の大伽藍を建て、この日、開堂式の式典を行い、そのあと私に記念講演をしてほしいと依頼されていたのである。高橋師は、私が記念講演を引き受けたあと、二度も東京と名古屋へご挨拶に来られた。こんなていねいな人は見たことがない。一度は池上の本門寺に、今一度は名古屋の中日文化センターの受付の前に来られ、「6月29日の記念講演、よろしくお願い申し上げます」と丁重にご挨拶下さり、私の方が恐縮した。もうきまっている講演の前に二度も重ねてご挨拶に見えたのは、あとにも先にも高橋浄英師のみである。
なんというご丁寧な人かと少々呆れたくらいの丁重さで、これだけ丁寧にご挨拶されては、万障くり合わせて行かないわけにはいかなくなるだろう。その日、実に七百人のお檀家がお参りされ、本堂に入りきらないので、巨大な天幕の会場を二つも作り、大きなテレビを置き、本堂にいて聞くのと全く同じ条件で私の記念講演を聴いて頂いた。本堂のご本尊は中宮寺のご本尊にそっくりの仏さまである。なんでも高橋師は、私の母が出征する私に玄関で軍刀を押しつけた時、中宮寺の仏さまそっくりの微笑みをしたという話に感動され、ご本尊を中宮寺の仏さまそっくりに造って安置され、私の記念講演は「母心大悲(ぼしんだいひ)」というあのお話にしてほしいといわれたのである。
式典の前夜、私の泊まったパークホテルの大広間で、曹洞宗のご寺院方全員招待のパーティーが開かれた。高橋師の奥様も、小さなお嬢ちゃんも見え、なごやかないい会であった。白皙秀麗な高橋師のお顔は、どこにあっても白銀のように輝いていて、私はひとり喜んでいた。高橋師は私の息子のようなお年ゆえ、他人とは思えず、立派になった息子を遠くから眺めている父親のような気持ちさえして、胸が熱くなったりした。清麗なお顔のお母様の横にいられるはずのご夫君はとうにご他界ゆえ、よけいにそんな思いがしたのであろう。
昭和20年(1945)の1月のある朝、軍装に身を固め、地獄のフィリピンの戦場に赴くべく広島本照寺の玄関に立った私を見送る母は、私の軍刀をしっかりと抱き締めて放そうとしなかった。私は軍刀に手を伸ばし、心の中で「お母さん、放してくれぇ」と声にならぬ絶叫をした。母はやっと手を放し、夕顔の花が開くように微笑みを浮かべて、「それじゃ、体を、大事にしてね」と三言(みこと)いった。その微笑みは、中宮寺の観音さまのようであり、私は「白神さん」という市電の停留所まで歩くあいだ、人知れず「おかあさん、さようなら」と低声(ていせい)に称え、称えては涙をこぼした。母と別れるのが辛かったからではない。母の胸の痛みを思いやり、覚えず落涙(らくるい)したのである。
1月10日、私の乗り組んだサマラン丸という輸送船は、他の12隻の輸送船とともに門司を出港し、すぐに暴風雨にまきこまれ、7メートルを越す激浪の中を、身をよじるようにして航行し、バシー海峡を越えるまでに12隻の僚船を失い、山のような激浪の中をたった一隻、半死半生の有様で台湾の基骰`に逃げこんだ。
私はその間中、立って歩けるたった一人の将校ゆえ、毎日、日直将校となり、半死半生の兵を励まし、どなりつけ、いたわり、不死身の人間のように動き廻った。潜望鏡を激浪の中で三度も発見し、サマラン丸を三度助けた。その私に、影のようにつき添って護ってくれた者、それは母であった。中宮寺の仏さまそっくりの母の魂であった。
真如会主幹 紀野一義
記念講演 中宮寺如意輪観音さま
▲記念講演
▲中宮寺如意輪観音さま


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