ずいけい
まごころに生きる  


禅宗寺院では、(しち)(どう)()(らん)といって、七つのお堂が修行の中心となります。それは、(はつ)(とう)(ぶつ)殿(でん)(さん)(もん)()(いん)(そう)(どう)浴司(よくす)(とう)()の七つです。法堂は本堂。仏殿はご本尊さまを(まつ)るお堂。山門は門のこと。お寺は山の中にあったので、お寺の門は山門となりました。庫院は台所。僧堂は坐禅堂。東司はトイレ。そして浴司(よくす)は浴室、お風呂のことです。僧堂・東司とともに、三黙道場(さんもくどうじよう)(会話・談笑が禁じられる三つの場所)の一つで、入浴中は会話をすることが禁じられています。
入浴は、万病のもととなる冷えから身体を守るためにも、また心をゆったりリラックスさせるためにも、日本人にとって大変好ましいものです。
日本での入浴の習慣は、もともとは神道の風習からはじまりました。川や滝で行われた(もく)(よく)の一種と思われる()(そぎ)として古くから行われていました。そこへ、6世紀に仏教が渡来します。仏教で沐浴は、病を退(しりぞ)けて福を招来するものとして、また仏さまに(つか)えるものは、(よご)れを落として(しよう)(じよう)でなければならないということから、共同生活をしていた大きなお寺などで、お風呂を沸かしてお坊さんたちが入るようになりました。
奈良時代には、お風呂のなかった庶民にも、お寺の浴室で入浴を(ほどこ)したとされます。さらに、平安時代には銭湯のはしりともいえる()()が登場します。
入浴の習慣は、鎌倉・室町時代に入っても幕府や寺院によって受けつがれ、「()(どく)()()」と呼ばれる一定の日にちを定めて、入浴が庶民にふるまわれました。さらに、入浴の習慣は個人にも広まり、入浴の後には茶の湯や酒席をもうけ、人を招いて宴を催すことを「風呂」というようになったといいます。
 
さて、大本山永平寺での沐浴をご紹介します。浴司(よくす)(浴室)は、山門の右側にあります。そして、修行道場では入浴のことを「(かい)(よく)」と呼び、入浴も修行の一つととらえています。開浴の日は四と九のつく日に決まっていて、日中に入浴します。
開浴するにあたって、(うん)(すい)(修行僧)が寝起きし坐禅の修行をする(そう)(どう)(坐禅堂)のご本尊、(もん)(じゆ)()(さつ)さまが入浴する儀式が行われます。それは、文殊さまの前に供えられた「浴司百拝(よくすひやつぱい)」と墨書きされた木綿の白布を、係の雲水が(かか)げ、般若心経を唱えながら浴司へ向うところからはじまります。浴司には、跋陀婆羅菩薩(ばつたばらぼさつ)さまが祀られており、その前で焼香し三度の礼拝をした後、()桶の前にひざまづき、『(しよう)(じよう)(しん)(ごん)』(オン・シュリ・シュリ・マカ・シュリ・シュ・シリ・ソワカ)を唱え、白布を湯に浸して洗います。そして、白布を一番湯に浸し洗うことによって、文殊菩薩さまの「一番風呂」の入浴とするのです。
その後、老師につづき古参の雲水から順に入浴することになります。入浴の方法は、浴司に入ると、まず跋陀婆羅菩薩(ばつたばらぼさつ)さまの前へ進み、合掌し『(にゆう)(よく)()
(もく)(よく)(しん)(たい)(とう)(がん)(しゆ)(じよう)(しん)(じん)()()(ない)()(こう)(けつ)
を唱え三度の礼拝をした後入浴します。入浴が終わると、また同じように礼拝し僧堂へもどります。
このように禅の修行道場では、浴司(よくす)での入浴は身体と心を清浄にするための修行の場であると考え、現在でも入浴する際には(しん)()(生活規則)によって入浴作法が定められています。

浴司(よくす)のご本尊
跋陀婆羅菩薩(ばつたばらぼさつ)さまとは

パドラ・パーラというインドの聖人で、中国に伝わったときにこの漢字が当てられました。手にはお湯をかき混ぜる(かい)を持っています。『首楞厳経(しゆりようごんきよう)』というお経の中に登場します。あるとき跋陀婆羅菩薩(ばつたばらぼさつ)さまは、信者の方からお風呂の供養を受け、入浴していたときに、(こつ)(ぜん)として「自己と水が(いち)(によ)であることを」(自分と水とが一つであり、目に見える世界は隔たりがなく、すべては平等である)悟ったと記されています。この故事にならい禅宗寺院では、浴司(よくす)跋陀婆羅菩薩(ばつたばらぼさつ)さまをお祀りするようになりました。
 



最新記事へ



●令和6年1月号 生命とは動的平衡
●令和5年10月号 色即是空空即是色
●令和5年8月号 森の木は会話する
●令和5年5月号 教育勅語
●令和5年3月号 龍村仁監督と佐藤初女さん
●令和5年1月号 中宮寺 如意輪観音
●令和4年10月号 人は死なない
●令和4年8月号 バッチ博士のフラワーレメディ
●令和4年5月号 縄文文化-縄文土器-
●令和4年3月号 イマジン
●令和4年1月号 日本のなりたち
●令和3年10月号 ありがとう
●令和3年8月号 「而今」ー今ここー
●令和3年5月号 シュリハンドクとレレレのおじさん
●令和3年3月号 コロナウイルスとこれからの日本
●令和3年1月号 三密とコロナ
●令和2年10月号 日月神示が告げるコロナとミロクの世界
●令和2年8月号 祈祷-命の危機の時代に-
●令和2年5月号 色即是空-色はすなわち是れ空なり-
●令和2年3月号 お彼岸-内海聡先生講演会-
●令和2年1月号 お水の時代
●令和元年10月号 生まれる前のおはなし
●令和元年8月号 祈りと量子力学
●令和元年5月号 一休禅師とシャーリー・マクレーン
●平成31年3月号 『浴司』よくす
●平成31年1月号 夢と意識
●平成30年10月号 『而今』にこん
●平成30年8月号 懐奘さまのまごころ 孝順心
●平成30年5月号 唯仏与仏
●平成30年3月号 彗星探索家 木内鶴彦さん
●平成30年1月号 金子みすゞの世界
●平成29年10月号 お地蔵さま
●平成29年8月号 お盆
●平成29年5月号 諸法実相-ただ仏と仏とのみ-
●平成29年3月号 即心是仏
●平成29年1月号 はじまりはひとつ
●平成28年10月号 ホセ・ムヒカの生き方と言葉
●平成28年8月号 1/4の奇跡
●平成28年6月号 いのちをむすぶ ー佐藤初女さん
●平成28年3月号 般若心経
●平成28年1月号 生きがい
●平成27年10月号 死後の世界(その二)
●平成27年8月号 死後の世界
●平成27年5月号 ダライ・ラマ十四世法王
●平成27年3月号 正倉院ーシルクロードの終着駅ー
●平成27年1月号 三帰礼文ー三宝を敬うお唱えー
●平成26年10月号 「般若心経」色即是空・空即是色
●平成26年8月号  ハス
●平成26年5月号 観音さま
●平成26年3月号 無情説法
●平成26年1月号 石田徹也
●平成25年10月号 食 じき
●平成25年8月号 GOMA
●平成25年5月号 宮沢賢治ー菩薩の道を行くー
●平成25年3月号 東日本大震災 三回忌追悼
●平成25年1月号 新年あけましておめでとうございます
●平成24年10月号 宇宙の始まり
●平成24年8月号 ふくしま
●平成24年5月号 花まつり
●平成24年3月号 画餅 -絵に描いた餅-
●平成24年1月号 いま・ここを大切に生きる
●平成23年10月号 大自然から学ぶ
●平成23年8月号 暑中お見舞い申し上げます
●平成23年5月号 花まつりーお釈迦さまの誕生日
●平成23年3月号 「奇跡のリンゴ」
●平成23年1月号 「すべてはこころ」
●平成22年8月号 自発的治癒力
●平成22年8月号 地蔵盆
●平成22年8月号 奇跡のリンゴ
●平成22年5月号 お水取り
●平成22年3月号 仏さまに救われて
●平成22年2月号 号外 真如の表紙
●平成22年1月号 新年のごあいさつ
●平成21年10月号 浄国寺御開山
●平成21年5月号 花まつり
●平成21年3月号 お彼岸
●平成21年3月号 チェンジ-変革
●平成20年10月号 あいさつ
●平成20年8月号 天来の呼び声
●平成19年8月号 釈迦八相
●平成19年5月号 花まつりーお釈迦さまの誕生日
●平成17年10月号 イサム・ノグチとモエレ沼公園

Copyright (C) 2009 joukoku-ji.jp. All Rights Reserved.