ずいけい
まごころに生きる  


奈良東大寺の「お水取り」は、関西に春を告げる行事として知られています。この度ご縁をいただき、その法会(ほうえ)に参列することができました。

東大寺二月堂で行われるお水取りは、「修二会(しゆにえ)」とも呼ばれます。これは、現在では三月一日から十四日まで二週間行われていますが、もとは旧暦の二月一日から行われていました。二月に修する法会という意味をこめて「修二会」と呼ばれるようになりました。また、二月堂の名もこのことに由来しています。
「修二会」の法会は、正式には「十一面悔過(じゆういちめんけか)」といいます。悔過(けか)とは、自らの(あやま)ちを()い改め懺悔(ざんげ)するという意味で、二月堂ご本尊の十一面観音さまに、東大寺の僧侶が人々に代わって懺悔(ざんげ)の行法をおつとめし、天下太平(てんかたいへい)五穀豊穣(ごこくほうじよう)万民快楽(ばんみんけらく)のご加護を祈る法会です。
この法会の行を行う僧侶を、「練行衆(れんぎようしゆう)」といい、特に選ばれた十一名の僧侶が、二週間のあいだお()もりをして、六時(ろくじ)勤行(ごんぎよう)(昼夜六回にわたるお勤め)をはじめ、法華懺法(ほつけせんぼう)数取懺悔(かずとりさんげ)・走り行道(ぎようどう)達陀(だつたん)実忠忌(じつちゆうき)などさまざまな行事や行法を行います。
この行法の一つに「お水取り」があります。お水取りは、三月十二日の真夜中に、二月堂脇の「若狭井(わかさい)」という井戸からお水を汲む行事です。
このお水は、加持(かじ)の行法により、より霊力を増した「お香水(こうずい)」となります。このお香水を観音さまにお供えし、ご加護を祈願いたします。
また、この行法は真夜中に行われるため、行を行う練行衆の道明かり(行灯(あんどん))として松明(たいまつ)に火がともされます。
現在では、「おたいまつ」といわれる大きな松明がお堂の回廊を巡って、欄干から突き出され、ごろごろと回転されます。松明は勢いよく燃え上がり、火の粉を舞い散らします。毎年テレビで放映される、あの壮大な火の演出となっています。
このため、修二会は「お水取り」・「お松明(たいまつ)」とも呼ばれるようになりました。
 
さて、東大寺の修二会と福井県小浜市(おばまし)は、深いつながりがあります。
それは、「お水取り」で汲み上げられるお水は、福井県小浜市若狭(わかさ)神宮寺(じんぐうじ)から「お水送り」で送られたお水であるからです。
これには一つの伝説があります。
それは、修二会は東大寺の開山良弁僧正(ろうべんそうじよう)高弟(こうてい)で、新羅(しらぎ)より渡来した実忠和尚(じつちゆうかしよう)により始められました。今から千二百五十年余り前の天平勝宝四年(752)のことです。そのとき、実忠和尚は全国の神々をこの法会に招きましたが、若狭(わかさ)の国の神様である遠敷明神(おにゆうみようじん)が、魚釣りをしていて、この法会に遅刻してしまいます。
遠敷明神(おにゆうみようじん)は、遅れたお詫びに、二月堂のそばに香水を出して献上する約束をします。
神宮寺の先には「()()」という清流があります。この洞穴(ほらあな)から黒白二羽の()が地中にもぐり、東大寺二月堂の脇から飛び出し、その穴から湧き水が吹き出したといいます。この井戸が、お水取りの「若狭井(わかさい)」となったといわれています。
神宮寺では、毎年三月二日鵜の瀬で「お水送り」を行います。そのお水は十日間かけて奈良まで届くと伝えられているのです。

私が参列させていただいた三月十四日は、午後六時半にお松明が連続して十本上りました。長さが七メートルほどある根がついた竹竿に直径一メートルの頭部に火が灯され、お堂を登っていきます。そして、大勢の参詣者が見守る中、欄干から松明が突き出されます。お堂はうなるような歓声に包まれ、興奮が高まり、壮大な火の演出に酔いしれました。その後、法要は堂内に移ります。ご加護を願う回向文(えこうもん)の作法などがあり、内陣(ないじん)では結願(けちがん)(法要の終了)作法が行われていきます。作法がすべて終わるころには真夜中となっていました。
このお水取りは、千二百五十年もの長い期間、一度も絶えることがなかったといわれます。国家の無事を祈る東大寺の僧侶の熱い思いと、それをささえた奈良の信仰の篤さに心を打たれました。
●東大寺 華厳宗。開山良弁(ろうべん)。728年、聖武天皇が亡くなった皇太子の菩提を弔うため建立。752年、大仏開眼。お水取りは、良弁の弟子実忠(じつちゆう)が始める。754年、東大寺にて鑑真和上(がんじんわじよう)が日本で初めて授戒(じゆかい)をする。
▲大仏殿 ▲二月堂 ▲大勢の参詣
▲お松明 ▲おたいまつ ▲若狭井の鵜
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