ずいけい
まごころに生きる  



私が求めているのは、自然の目を通して自然を視ること、そして、特別な尊厳の対象としての人間を無視することです。
精神と物質のみごとな均衡をかちとるには、芸術家は統一体としての自然研究に浸りきることによって、自然の一部、つまりこの地球自体の一部にまで自らを還元し、内奥の姿と生命の要素を視ることが必須の条件であります。
−イサム・ノグチ−
▼モエレ沼公園
モエレ沼公園今年7月1日、23年の歳月をかけて札幌にモエレ沼公園が完成しました。この公園の設計は、彫刻家のイサム・ノグチで敷地全体が彼の彫刻作品であるといわれています。
イサム・ノグチは「モエレ沼は、個々の作品を通しその全体が彫刻である。さらに、この公園を取り巻く大地、空間、そこに生い茂る草木、川、沼、空、鳥、魚、昆虫。そして、この公園に集う人々が仲良く、多様な生活をしていること。自然が調和している姿、それが私がモエレに描いた夢である」といいます。
彼の彫刻芸術は、自然と生命の本質にせまるもので、ダヴィンチからの脱却を目指したともいわれ、今日、ランドスケープ(人工環境と自然の調和した景観・造園)ともいわれる、大地の彫刻家であるといえます。
また、イサム・ノグチの特異な生い立ちは、彼の芸術に大きな影響を与えているといわれます。イサム・ノグチは日本の詩人、野口米次郎とアメリカ人の作家であった母、レオニー・ギルモアとの間に非嫡子(ひちゃくし)で、しかも日米の混血児として生まれました。それは、日本とアメリカの両方に帰属しながら、どちらにも根を下ろせない、いわば漂流者としての生き方を余儀なくされました。また、その後に訪れる日米間の戦争により、彼の生涯はさらに複雑さを増しました。
イサムはアメリカで生まれ、幼少期を日本で過ごし、その後再びアメリカに戻り青年期を送ります。父親はイサムが生まれる前に日本へ帰り、イサムが母とともに日本へやってきた時には、日本人の妻と別の家庭を築いていました。
最初にイサムに芸術家への道を選ばせたのは母ギルモアですが、細菌学者、野口英世との出会いも大きな影響を与えました。イサムはコロンビア大学の医学部へと進学します。その大学にいた、父野口米次郎の知人でもあった、ノーベル学者野口英世を訪ねます。イサムは「医学と芸術とでは、どちらが真理に近寄れますか」と尋ねます。野口英世は、イサムが医学に関心を示していないことを察知し「それは芸術です」と、父と同じ芸術の道に進むことを強く(うなが)します。イサムは、性をギルモアから「ノグチ」に変え、ここに芸術家イサム・ノグチが誕生したのです。
その後、彼はパリへ渡り、弟子をとらないことで有名であったコンスタンティン・ブランクーシの助手となります。彼はさらに世界中を旅し、その国の文化を学び吸収し、次々に作品を制作していき、世界が認める彫刻家となっていきます。
日本には、彼が四十五歳の時に来日し、岐阜の特産、美濃和紙で行灯(あんどん)のようなデザインの照明器具「あかり」をつくって世界中に知られ、日本人にもその名を知られるようになりました。また、大阪万博の巨大噴水彫刻も手掛けています。そして、香川県の牟礼(むれ)町にアトリエを設け、石の彫刻に専念し作品を発表していきます。その中の「スライドマントラ」と名付けられた、石のすべり台は札幌の大通り公園にも設置されています。また、彼は日本の文化と禅をアメリカに伝えた鈴木大拙(すずきだいせつ)との交流により、日本文化への哲学的想いが高められたといいます。イサム・ノグチの傑作といわれる「エナジー・ヴォイド」−宇宙(虚空)の法則とでもいうのでしょうか−も、禅の第一義(だいいちぎ)(大切なところ)を示した「円相(えんそう)」(衆生(しゅじょう)のこころが平等なことを象徴したもの)の形とどこか重なるものがあるように思えます。
「エナジー・ボイド」その虚空のさきに、モエレ沼公園で楽しそうに遊ぶ子供たちの姿が浮かびます。日米の混血児として生まれ育ち、太平洋戦争を体験したイサム・ノグチが人一倍平等と平和を切望していたことは、想像に難くないといえます。彼の最後にして最大の作品モエレ沼公園にはその想いが詰め込まれていると思います。
あかり スライドマントラ エナジーボイド
▲あかり
▲スライドマントラ ▲エナジーボイド

最新記事へ



●令和6年1月号 生命とは動的平衡
●令和5年10月号 色即是空空即是色
●令和5年8月号 森の木は会話する
●令和5年5月号 教育勅語
●令和5年3月号 龍村仁監督と佐藤初女さん
●令和5年1月号 中宮寺 如意輪観音
●令和4年10月号 人は死なない
●令和4年8月号 バッチ博士のフラワーレメディ
●令和4年5月号 縄文文化-縄文土器-
●令和4年3月号 イマジン
●令和4年1月号 日本のなりたち
●令和3年10月号 ありがとう
●令和3年8月号 「而今」ー今ここー
●令和3年5月号 シュリハンドクとレレレのおじさん
●令和3年3月号 コロナウイルスとこれからの日本
●令和3年1月号 三密とコロナ
●令和2年10月号 日月神示が告げるコロナとミロクの世界
●令和2年8月号 祈祷−命の危機の時代に−
●令和2年5月号 色即是空−色はすなわち是れ空なり−
●令和2年3月号 お彼岸−内海聡先生講演会−
●令和2年1月号 お水の時代
●令和元年10月号 生まれる前のおはなし
●令和元年8月号 祈りと量子力学
●令和元年5月号 一休禅師とシャーリー・マクレーン
●平成31年3月号 『浴司』よくす
●平成31年1月号 夢と意識
●平成30年10月号 『而今』にこん
●平成30年8月号 懐奘さまのまごころ 孝順心
●平成30年5月号 唯仏与仏
●平成30年3月号 彗星探索家 木内鶴彦さん
●平成30年1月号 金子みすゞの世界
●平成29年10月号 お地蔵さま
●平成29年8月号 お盆
●平成29年5月号 諸法実相−ただ仏と仏とのみ−
●平成29年3月号 即心是仏
●平成29年1月号 はじまりはひとつ
●平成28年10月号 ホセ・ムヒカの生き方と言葉
●平成28年8月号 1/4の奇跡
●平成28年6月号 いのちをむすぶ ー佐藤初女さん
●平成28年3月号 般若心経
●平成28年1月号 生きがい
●平成27年10月号 死後の世界(その二)
●平成27年8月号 死後の世界
●平成27年5月号 ダライ・ラマ十四世法王
●平成27年3月号 正倉院ーシルクロードの終着駅ー
●平成27年1月号 三帰礼文ー三宝を敬うお唱えー
●平成26年10月号 「般若心経」色即是空・空即是色
●平成26年8月号  ハス
●平成26年5月号 観音さま
●平成26年3月号 無情説法
●平成26年1月号 石田徹也
●平成25年10月号 食 じき
●平成25年8月号 GOMA
●平成25年5月号 宮沢賢治ー菩薩の道を行くー
●平成25年3月号 東日本大震災 三回忌追悼
●平成25年1月号 新年あけましておめでとうございます
●平成24年10月号 宇宙の始まり
●平成24年8月号 ふくしま
●平成24年5月号 花まつり
●平成24年3月号 画餅 -絵に描いた餅-
●平成24年1月号 いま・ここを大切に生きる
●平成23年10月号 大自然から学ぶ
●平成23年8月号 暑中お見舞い申し上げます
●平成23年5月号 花まつりーお釈迦さまの誕生日
●平成23年3月号 「奇跡のリンゴ」
●平成23年1月号 「すべてはこころ」
●平成22年8月号 自発的治癒力
●平成22年8月号 地蔵盆
●平成22年8月号 奇跡のリンゴ
●平成22年5月号 お水取り
●平成22年3月号 仏さまに救われて
●平成22年2月号 号外 真如の表紙
●平成22年1月号 新年のごあいさつ
●平成21年10月号 浄国寺御開山
●平成21年5月号 花まつり
●平成21年3月号 お彼岸
●平成21年3月号 チェンジ-変革
●平成20年10月号 あいさつ
●平成20年8月号 天来の呼び声
●平成19年8月号 釈迦八相
●平成19年5月号 花まつりーお釈迦さまの誕生日
●平成17年10月号 イサム・ノグチとモエレ沼公園

Copyright (C) 2009 joukoku-ji.jp. All Rights Reserved.