ずいけい
まごころに生きる  



▲ ダライ・ラマ十四世法王

今年4月3日、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ法王が初めて道内を訪問され講演されました。私も法王の法話を拝聴させていただきました。
法王は、1935年農家に生まれ、2歳のときにダライ・ラマ十三世の生まれかわりと認められ、5歳でダライ・ラマ十四世に即位されます。
慈悲の仏さまである「観世音菩薩」(観音さま)は、チベットの守り本尊とされ、ダライ・ラマ法王はその観世音菩薩の生まれかわりで、人々を救済するために現れた活仏(かつぶつ)(観音さまの化身(けしん)()き仏)と信じられています。1949年の中国共産党によるチベット侵攻により、当時15才の法王は、政治と宗教の最高指導者として全権をになうことになります。その後1959年にインドへ亡命され、北インドのダラムサラにチベット亡命政権を樹立され、以来、一貫して非暴力を唱え、世界各地で慈悲の教えを説き続けてこられました。1989年には、平和への活動が認められ、ノーベル平和賞を受賞されています。
この度の来日は1967年の初来日から数え、21回目となりました。法王がこのように頻繁に来日されるのは、同じアジア人、同じ仏教国ということだけではありません。「日本には、神道と仏教をはじめ大変豊かな伝統がありますし、現代教育や科学技術もあります。私は日本を、何世紀も昔から伝わる伝統的価値と現代的な技術を結び合わせることができる非常にユニークな可能性を秘めた国として評価しています」と法王はいわれます。世界の未来をリードしていく国として、日本人の力に大きな期待を持たれているものと思います。
 
さて、以前当山にもご講演いただいた、「1/Fゆらぎ」で知られる理学博士の佐治治夫先生は、ダライ・ラマ法王十四世との会談で、ベトナムの禅僧であり詩人のティック・ナット・ハン師のことば「一枚の紙の中に雲が見えますか、と問いかけられたら何とお答えになりますか?」と質問されたそうです。これに対して法王は、「とても詩的な表現です。そう言ってもさしつかえないでしょうね」とお答えになったそうです。
考えてみれば、紙の原料はパルプです。それは樹木から作られ、樹木が育つには水が必要です。その水をもたらすものは雨であり、その雨を降らせるためには雲がなければなりません。一枚の紙には雲が関わっているということでしょう。このことを詩的に表現すると「一枚の紙に雲が見えますか?」ということになるのでしよう。
この考え方の根底にあるのは、すべての存在は、そのものだけが単独に独立しているのではなく、他の色々なものと深くつながり関わりあいながら成り立っているということです。仏教ではこれを縁起(えんぎ)と説いています。法王は、この縁起の法則に即座に気付かれ「詩的な表現です」といわれたのでしょう。

さて、この度の講演で法王は、幸福についてこう話されました。
「私は、人生の真の目的は幸福を求めることだと信じています。人類一人ひとりはすべて幸せに、苦しみがない人生を歩みたいと願っているということです。そして、本来すべての人は、皆平等です。私も皆さまも同じ一人の人間であり、差別はないのです。
さて、私たちは今世紀において、物質的な繁栄という面では大きな進歩を成し遂げました。また、この進歩により、貧困や病気といった人間にとって基本的な苦しみを大幅に克服したことも事実です。しかしながら、今までの物質的な繁栄が人間の社会生活をより幸福にしたかどうかを評価すると、否定的な結論をださざるを得ません。私たちは幸福を富によりもたらされるものと考え、それを追い求める限り幸福を見つけることはできないし、幸福になることをあきらめなくてはならないのです。物質的な物事や条件は幸福を生むのになにがしかの役割をしますが、これを幸福の源泉であると見るのは間違いです。物質的に発展した現在の私たちの社会の中では、幸福よりもむしろ不幸の方が目立っているのは、この事実を示す何よりの証拠です。
本当の幸福とは、私たちの心に生じ、心とともにあるのです。もっと正確に言うならば、幸福とは私たちの心の状態なのです。心が安らかであれば、いつでも満ち足りた気持ちでいられます。物質が幸せの源だと錯覚するから、むなしさにつきまとわれるのです。」

そして講演の最後に、法王はこういわれました。「現代社会は、物質の面に偏りすぎてしまいました。それを解決するには、利己的な考えではなく、利他的な考えを持っていかなくてはなりません。
利他的とは、思いやりということです。思いやりは人間に与えられたすばらしい能力です。思いやりの心を育むことが、人生で成功を収める究極の秘訣です。
我々の世代は、さまざまな問題を作り出してしまいました。この問題をこれからの若い世代に解決していってほしいと思います。それには心の教育が大切です。観世音菩薩の慈悲、思いやりの心を大切にする教えを是非これからの未来を担う若い世代に伝えてほしいのです。」

こう説かれる法王のお姿は、とてもやさしく、穏やかで慈愛に満ちた観音さまのようでした。






最新記事へ



●令和6年1月号 生命とは動的平衡
●令和5年10月号 色即是空空即是色
●令和5年8月号 森の木は会話する
●令和5年5月号 教育勅語
●令和5年3月号 龍村仁監督と佐藤初女さん
●令和5年1月号 中宮寺 如意輪観音
●令和4年10月号 人は死なない
●令和4年8月号 バッチ博士のフラワーレメディ
●令和4年5月号 縄文文化-縄文土器-
●令和4年3月号 イマジン
●令和4年1月号 日本のなりたち
●令和3年10月号 ありがとう
●令和3年8月号 「而今」ー今ここー
●令和3年5月号 シュリハンドクとレレレのおじさん
●令和3年3月号 コロナウイルスとこれからの日本
●令和3年1月号 三密とコロナ
●令和2年10月号 日月神示が告げるコロナとミロクの世界
●令和2年8月号 祈祷-命の危機の時代に-
●令和2年5月号 色即是空-色はすなわち是れ空なり-
●令和2年3月号 お彼岸-内海聡先生講演会-
●令和2年1月号 お水の時代
●令和元年10月号 生まれる前のおはなし
●令和元年8月号 祈りと量子力学
●令和元年5月号 一休禅師とシャーリー・マクレーン
●平成31年3月号 『浴司』よくす
●平成31年1月号 夢と意識
●平成30年10月号 『而今』にこん
●平成30年8月号 懐奘さまのまごころ 孝順心
●平成30年5月号 唯仏与仏
●平成30年3月号 彗星探索家 木内鶴彦さん
●平成30年1月号 金子みすゞの世界
●平成29年10月号 お地蔵さま
●平成29年8月号 お盆
●平成29年5月号 諸法実相-ただ仏と仏とのみ-
●平成29年3月号 即心是仏
●平成29年1月号 はじまりはひとつ
●平成28年10月号 ホセ・ムヒカの生き方と言葉
●平成28年8月号 1/4の奇跡
●平成28年6月号 いのちをむすぶ ー佐藤初女さん
●平成28年3月号 般若心経
●平成28年1月号 生きがい
●平成27年10月号 死後の世界(その二)
●平成27年8月号 死後の世界
●平成27年5月号 ダライ・ラマ十四世法王
●平成27年3月号 正倉院ーシルクロードの終着駅ー
●平成27年1月号 三帰礼文ー三宝を敬うお唱えー
●平成26年10月号 「般若心経」色即是空・空即是色
●平成26年8月号  ハス
●平成26年5月号 観音さま
●平成26年3月号 無情説法
●平成26年1月号 石田徹也
●平成25年10月号 食 じき
●平成25年8月号 GOMA
●平成25年5月号 宮沢賢治ー菩薩の道を行くー
●平成25年3月号 東日本大震災 三回忌追悼
●平成25年1月号 新年あけましておめでとうございます
●平成24年10月号 宇宙の始まり
●平成24年8月号 ふくしま
●平成24年5月号 花まつり
●平成24年3月号 画餅 -絵に描いた餅-
●平成24年1月号 いま・ここを大切に生きる
●平成23年10月号 大自然から学ぶ
●平成23年8月号 暑中お見舞い申し上げます
●平成23年5月号 花まつりーお釈迦さまの誕生日
●平成23年3月号 「奇跡のリンゴ」
●平成23年1月号 「すべてはこころ」
●平成22年8月号 自発的治癒力
●平成22年8月号 地蔵盆
●平成22年8月号 奇跡のリンゴ
●平成22年5月号 お水取り
●平成22年3月号 仏さまに救われて
●平成22年2月号 号外 真如の表紙
●平成22年1月号 新年のごあいさつ
●平成21年10月号 浄国寺御開山
●平成21年5月号 花まつり
●平成21年3月号 お彼岸
●平成21年3月号 チェンジ-変革
●平成20年10月号 あいさつ
●平成20年8月号 天来の呼び声
●平成19年8月号 釈迦八相
●平成19年5月号 花まつりーお釈迦さまの誕生日
●平成17年10月号 イサム・ノグチとモエレ沼公園

Copyright (C) 2009 joukoku-ji.jp. All Rights Reserved.