ずいけい
まごころに生きる  


中国唐の時代に、百丈禅師(ひゃくじょうぜんじ)というすばらしい禅僧がいました。また、その門下に潙山(いさん)香厳(きようげん)というすぐれたお弟子がいました。潙山(いさん)は牛の生まれ変わりといわれ、のっそりとした大物でした。香厳(きようげん)は秀才で、頭もよく切れ、よく勉強もしました。
丈禅師(ひやくじようぜんじ)が亡くなられても、潙山(いさん)はいささかも動じません。かえって立派になったほどです。ところが香厳(きようげん)の方は、師を失ってからどうしていいのかわからなくなります。そこで兄弟子の潙山(いさん)のところへやってきて、弟子にしてほしいとたのみます。
潙山(いさん)は即座にことわります。どうしてもと言うので、問題を出します。答えられたら弟子にしてやるというわけです。それが「父母未生已然(ぶもみしよういぜん)(なんじ)いかん」。おまえが父と母とから生まれてくる以前のおまえは何であったか、というものです。
(きよう)(げん)は答えられません。これは、知性以前の問題だからです。これまで勉強してきた知識を総動員して考えてみますが、まったく手のつけようがありません。ついに香厳(きようげん)は「画餅(がびよう)()えを(みた)さず」と嘆き、山を下りていきます。
画に描いた餅では飢えを充たすことはできない。今までの勉強はみんな実地に即していない、観念の遊びであったということです。それでは、生身の人間の飢えを充たすことはできない、というのです。このことばは(ことわざ)になり、今も使われています。

ところが、道元禅師(どうげんぜんじ)さまは、この月並みな解釈に異を唱えられます。
道元さまは『正法眼蔵(しようぼうげんぞう)画餅(がびよう)』の中で、画に描いた餅でなくては、飢えを充たすことはできないのだと主張されます。
ただまさに尽界尽法(じんかいじんぽう)画図(がと)なるがゆえに、人法(にんぽう)は画より現じ、仏祖(ぶつそ)は画より(じよう)ずるなり。しかあればすなわち画餅(がびよう)にあらざれば充飢(じゆうき)(やく)なし、画飢(がき)にあらざれば(にん)相逢(あいおう)せず、画充(がじゆう)にあらざれば力量(りきりよう)あらざるなり。
(あらゆる世界、あらゆる存在は、画かれた絵であるから人も物事も絵として現れるのであり、仏祖(ぶつそ)も絵によって生まれるのである。したがって、画に描いた餅でなければ、飢えを充たす(くすり)はなく。画に描いた飢えでなければ、真実の自己に()うことはできない。画に描いて充たすことでなければ、さとりにいたる力はない)
 
道元さまは、すべての世界は()()いた(もち)であるといわれます。絵に描いた餅から真理が生まれ、仏さまも生まれるのだというのです。この道元さまのいわれる画餅(がびよう)とは「イメージ」ということでしょう。「真実の思い」ということです。
画家はまずイメージを抱き、そのイメージを画に描き出します。彫刻家も、建築家も、企業家も、政治家も、そしてわれわれ自身もみな同じです。イメージがなくてはなにものも生み出すことができないのです。
また、「飢え」というのは、人間の根源的な欲求のことです。人間として生まれてきた以上、何かをやりとげたい。それをやりとげてはじめて、人間として生きたという充足感が得られます、その欲求が「飢え」であるというのです。
私たちは「イメージ」がなければ、何もできないのであり、本当にやりたいことがなくては「飢え」も知らないことになります。飢えを知らなければ、画家にもなれず、真の人間にもなれません。「飢えを持ち、イメージを抱いて生きたい」と、道元さまはいわれるのです。





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